「来歴」追記
坂本多加雄さんの「来歴」への着眼と、それに依拠した著書『天皇論』での思考の展開は、たぶんたしかなひろがりや可能性をもっていたと思う。
しかし、同書のあとがきで「『戦後の来歴』をひとまず括弧に入れ、近代日本の国家制度や近代国際社会で日本が演じてきた事柄について、新たな物語を語る端緒を見つける」と謳った「思想家」がたどったのは、結局、そもそもの批判の対象であった「戦後の来歴」の枠組みそのものにとらわれた「保守派」としての道筋だった。
「新しい歴史教科書をつくる会」への参画など、いかにもこの国らしい「知」の様相の一典型ではあるにしても、いささかいたましい。
安易なイデオロギー的な意味と癒着した思想は、ほんらいの有効性を閉じたまま、たちまち朽ちていく。
誰に向かってなにを伝えようとしていたのか、真意を問いかけなおす術もなく。
0コメント