五行をはみ出し作業日記

若葉町ウォーフの「波止場のひとり舞台2023」、昨日は『森の直前の夜』、今日は『ラストダンス─千尋の海のとき─』の横浜千穐楽。

自分にとって大きな節目というか、あたらしい歩みの第一歩となる今回の公演をきっかけに、「五行日記」をはみ出しての「作業日誌」。


『森の直前の夜』

俳優西藤将人との共同作業は、ぼくにとってこれまで経験したことのないまったくあたらしい演劇的な体験になった。これからもそのようにつづいていくだろうという、たしかな予感もある。

ベルナール=マリ・コルテス、演劇人としての生涯の晩年にコルテス作品の紹介と翻訳に力を注いだ佐伯隆幸の存在をかたわらに、上演という営みを通して、俳優と演出者という名のドラマトゥルクとして<他者のテキスト>を読み解いていく。今年8月の末から三週間、西藤と企てているふたり旅上演で、<いま演劇すること>、<いまコルテスと対話すること>の意味を、観客とともにさらに深めていきたい。

『ラストダンス─千尋の海のとき─』

パートナーとして暮らしはじめて以来、啓子とはたくさんの舞台づくりを共にしてきた。初期の『ハムレットの新聞』をはじめ、自分なりの手応えを得た作品も少なくない。ことに「ダンス東風」と名付けられた、10年間にわたる彼女のアジア各地のアーティストとの連携企画に同伴して、得られたものは大きい。

踊りつづけるダンサーとして、また、創造的な舞踊集団「ダンス01」のリーダーとして、体の調整を中心に日々の規則正しい組み立てを坦々と重ねるかたわらにいて、あるいはそれゆえにこそ、台本作者、演出者としてかかわり方にはいつも迷いがつきまとう。

今回は、啓子の舞踊生活の起点となった、マーサ・グラハムの伝記を通して彼女と親しかった海洋生物学者レイチェル・カーソンを知り、その思想と言葉から構想が自然にかたちになった。踊るダンサーの体そのものがひとつの物語だ。その物語によりそう言葉と空間が、観客の視線の中で静かに、そして深く変容する。作者、演出者としてのダンスへのかかわり方に、ようやく手が届きそうな気がする。

5月26日(金)~28日(日)は、京都E9での公演です。劇場でお待ちしています。
https://askyoto.or.jp/e9/ticket/20230526

(写真:姫田 蘭)

佐藤信の五行日記

小人閑居為不善 うつけもの ひまのまのまの だだあそび

0コメント

  • 1000 / 1000